あたしの夢はふたつある。 ひとつはるーちゃんのオルガンに合わせて、ハンドベルを弾くこと。 そして、もうひとつは、るーちゃんのお嫁さんになることだ。 HandBell Dance るーちゃんっていうのはあたしのお兄ちゃん。 本当は薫っていうんだけどあたしはるーちゃんって呼んでる。 るーちゃんとは血が繋がってない。るーちゃんは新しいママの連れてきた子供だったから。 るーちゃんは髪が綺麗。どこだか知らないけど外国の人とのハーフだから、綺麗な赤い髪をしてる。でも日本にいると目立つから、いっつも赤い髪を黒い帽子で隠してる。もったいないなって思う。 るーちゃんはピアノが上手。初めて会ったのはあたしが八つの時だったけど、その時十五歳だったるーちゃんは、あたしの知らない複雑な曲を簡単に弾いてみせていた。 るーちゃんのピアノは生きてるみたい。指が鍵盤の上を走って、五線譜を真剣な目が追いかける。それなのに音楽は踊りたくなるくらい楽しくて、とても優しい。 あれは、あたしが十歳の頃だったと思う。 近くの教会でクリスマス会があった。 あたしは小学校の友達と一緒に参加した。 みんなで賛美歌を歌ったり、蝋燭に火を灯したり、サンタさんの格好をした神父さまにプレゼントをもらった。 クリスマス会の最後に、この聖なる日に祝福をと、ハンドベルの演奏を聴いた。 曲は誰もが知ってる、『AmazingGrase』。 ハンドベルを弾いていたのは教会のお手伝いをしている近所のお姉さんが一人だけで、どうやらソロ演奏らしかった。伴奏をるーちゃんが担当した。教会だったからいつものピアノじゃなくてオルガンだった。 静かな教会の中でお姉さんとるーちゃんが顔を見合わせる。二人の、すうっ、て息を吸う音が聞こえて、曲が始まる。 ハンドベルとオルガンが一緒に歌っていた。 ステンドグラス、火を灯した蝋燭、あたしたちの心。 全てに音楽が響いて、沁みこんでいく。あたしは黙ってじっと二人の演奏を聞きながら、まるで魔法のように感じていた。 「みどりちゃんのお兄ちゃんって外国の人みたいね」 演奏が終わって、もらったプレゼントの袋を開けながら友達のゆかりちゃんが言った。 「うん、だってお兄ちゃんハーフだもん」 「え? じゃあみどりちゃんもハーフ?」 そう聞かれて、これは言っちゃっていいのかな。って思ったけどゆかりちゃんだからいいか、と思って本当の事を言った。 「違うよ。お兄ちゃんとはね、親が違うの。血が繋がってないのよ」 子供心に重たい話だとわかっていたけど、ゆかりちゃんは「そうなんだ」って受け流してくれた。 じゃあさ、とゆかりちゃんが続ける。 「血が繋がってないなら、結婚できるね」 「え?」 それどういうこと? あたしがゆかりちゃんに聞こうとしたけど、あたしの言葉はすぐそばの歓声にかき消された。 お姉さんが子供たちにハンドベルを教えていたのだ。お姉さんは机の上のマットにベルを打ち付けて鳴らす技や一つの手で2個のベルを持って鳴らす技を披露していた。お姉さんが一つのベルから色々な音を鳴らすたび、子供たちが拍手する。 「かっこいいねえ」 ゆかりちゃんがつぶやく。その目はお姉さんとベルの魔法に見とれてるみたいだった。 るーちゃんがお姉さんに近づいていく。 「僕もピアノやっているけど、ハンドベルはハンドベルで違った響きがあっていいね」 「あら、薫さんのピアノ好きよ。また、どこかで一緒に演奏できたらいいわね」 「ああ、ぜひまた一緒に」 微笑みあう二人。悔しいけど、お似合いだな、って思った。 やめてよ。あたしのお兄ちゃんなのよ。あたしのるーちゃんなんだから。 あたしもるーちゃんのオルガンに合わせてとハンドベルを演奏できたらいいのに。 あんな風に心を一つにして一つの音楽を奏でることができたら。 あたしのこと認めてくれるかな。 その日から、あたしの夢が始まったのだ。 まだほんの序章にすぎませんが。 これは一応二次創作になるんでしょうか。パロディとオマージュの結合的な。 原作とまったく別物ですからね; mainページに戻る topに戻る |