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「そ、そういえば・・・・・・」 「な、なんだ!」


僕が見かねて話し出すと、思った以上にそいつは話しにのっかってきた。

掴まれた肩が痛い。


「そういえば、僕の蜂蜜が無くなってきたなあ・・・なんて・・・」


「・・・・・・」


僕が苦し紛れに言うと、相手は急に無言になる。

壺から蜂蜜がなくなるという事態は僕にとってけっこう困ったことだけど、そんなの近くのスーパーに買いにいけば万事解決だ。

別に正義の味方に頼んでまで解決してもらわなくてもいい。

けれど、僕にとってそれ以上に困ることは、このままこいつに付きまとわれることだ。

何か適当な事件を持ち出してこいつを追いやろうとしたが、僕にはコレしか思い浮かばなかったのである。

と、僕が正義の味方の方をちらりと見ると、そいつは思いつめたようにうつむいたあと、肩に置いた手の力を強めて、また僕の方を見た。


「・・・・・・わかった。苦しい戦いになるかもしれないが、少し待っていてもらえるか・・・?」


「は?」


「さらばっ!」


とうっ、と掛け声をあげ、その場で一回ジャンプした後、森の奥に走っていってしまった。

たぶん、マントがあればそのまま空へ高く飛んでいけたのだろうと思うと、少し不憫だ。

わけがわからず、取り残された僕はしばらく切り株に座って考えた。

いったい、アイツは何をする気だろう。蜂蜜を買ってきてくれるのだろうか。

いや、それでは正義の味方じゃなくてただのパシリだ。

その前にアイツは何なんだ。

こんな平和そのものな森に事件を求めるなんて、自分自身が事件であることに早く気づいてほしい。

僕は、しばらく考えていたけれど、このままここにいるとまたアイツと顔を合わせてしまうかもしれないので、家に帰ることにした。

ちょうど、日も傾き始めて、帰らなければいけない時間になってきた。

すると、僕の背後からがさがさという音と、ブウンブンと細かく振動する音が聞こえた。

嫌な予感がする。

僕はゆっくりと後ろを振り返った。


「すまない・・・・・・失敗した・・・・・・無念だ」


そこには自称正義の味方こと全身タイツだったものが草の陰から這い出してきている姿があった。

タイツの上からでもわかる皮膚のはれ上がった様子が痛々しい。

何があったのかなんて彼の後ろを見ればすぐわかる。

その手には蜂の巣、きっとその中には蜂蜜が・・・・・・。

そして彼の後ろを取り巻くものは・・・・・・。


「逃げてくれ・・・・・・クマくん」


そんな事、言い終わらないうちに僕は逃げ出していた。

蜂の大群が今にもこちらを襲わんとしていたのだ。

取り残された全身タイツは片手をこちらに伸ばし、

言っていることとは逆に助けを求めるポーズをとっていたが、そんなことは気にしていられない。

今は大群の蜂から自分の身を守ることが第一だ。

僕は二度と正義の味方と名乗るやつは信用しないと心に決めた。



自分の望みとは裏腹に、この先あいつに付きまとわれることになることになるのだけれど、それはまた別のお話。