ミユ 〜中学校編〜










中学校にあがった俺は勉強に、部活に、必死で打ち込んだ。

ほとんど無心に近かったかもしれない。


母さんは青天の霹靂かしらと喜んでいたが、純粋な思いだけで取り組んでいたといえば、そうではない。

忘れたくてしょうがなかったんだ。


ミユと離れて以来、靄のようなものが胸にのしかかっていた。

何を見ても何をしていてもミユの事を思い出す。

最初は、そのうち忘れるだろうと放っておいた。

けれど、放っておいても靄は少しずつ心を浸食していって、煮え切らない思いは助長するばかりで、耐えられなくなりそうだった。


ミユの事だけじゃない。

付随して、自分の情けなさ、不甲斐なさ、果てはあの頃の後悔がどっと押し寄せてくる。


当然ながら、俺を責めるやつはいない。

今更感が漂う俺の反省心に気づくやつもいるはずが無い。

俺を責めるのはやっぱり俺自身で。


責めて、反省して、一進一退。


何一つ変わらない。

変わるはずが無い。


ミユの諦めたような笑顔ばかりがちらつく。


あいつだけは俺の気持ちに気づいていたかもしれなかった。

俺を見るあいつの目、あいつの口は、いつも何か言いたそうに笑みの形に歪められていた。 ミユの口が俺の想像の中で開かれる。


「玲君は気にしなくていいんだよ」


なんて、都合のいい言葉ばかりが頭の中で渦巻く。


早く忘れなければいけない。そればかり、考えていた。





中学時代は、何度か恋もした。


手をつないだり、キスをしたり、その程度の中学生らしい可愛らしい恋愛だったけど。


彼女といるときでもミユの顔を思い出していた。


忘れたくてミユとは正反対の女の子を選んだつもりだったけど、いつも比べてしまって、また自己嫌悪に陥る。

結局、彼女に申し訳なくて別れるのが毎回のパターンだった。


手をつないだり、キスをするのはできても、それ以上は先へ進めない。


進もうとすると薄い壁の向こうの乱れた喘ぎが甦る。


もう俺は一生恋愛なんて出来ないんじゃないだろうか、とも考えた。


幼い頃に経験したどろどろとした苦い記憶は拭っても拭っても跡が残るばかりで少しも払拭されない。


どろどろを抱えたままでも不思議と普通に生活はできていた。

腹も空けば、毎日ちゃんと眠れていた。

友達や先生の前では極力平静を装って、優等生を演じていると、いいやつだと言われた。

無難に人間関係を築くのはなんて容易いことだろう。






高校は、少し家から離れたところを受験した。

みんな、お前ならもっといいところを目指せるだろうと言ってくれたが、苦笑いで返した。


遠いところに行きたかった。

けど、遠すぎるのは嫌だった。

ミユの記憶を忘れたくても、捨てられない、そんな気持ちがあったからかもしれない。


友達連中は誰一人俺と同じ高校に進学するやつはいなかった。「たまには連絡しろよ」と言って別れたが、たぶんしないだろうな、と思った。


まさかこの時の俺の決断が後々まで響いてくるとは夢にも思わなかった。










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