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3













ぐらり。



空気が歪む音か、

それともその辺一帯の音そのものが歪んでいるのか、

その不思議な違和は耳から入ってきて脳を支配していくような気がした。

押し寄せる潮のような、遠ざかる木霊のような、

騒ぎ、静まる音の波。音は重力を増し、頭に肩に脚にその圧力を与えてくる。

目の奥にチリッと小さな痛みをおぼえて、反射的に目を閉じる。



「大丈夫ですか?」



 一瞬とは言え、気を失うほどの眩暈に襲われたようだった。

気づけば、自分の体は目の前の白い人に支えられていた。

「この辺は磁場が歪んでいますからね。気をつけたほうがいいです」



 磁場が? 



それだけでは説明できないほどの感覚に陥ったのに?

 いまだにもやのかかったような頭を緩く振ってみるが、何も変わらず。

ふと、他人の腕をきつく掴み、どころか全体重を預けたままになっていたことに今更ながら気づく。



「・・・ありがとうございます。もう、大丈夫です」



「そうですか」



 安心したように、それでも労わるようにそっと、その人は僕を放してくれた。

それに安堵を覚えたのも束の間。

僕は本日何度目かの不思議な光景を目の当たりにする。







「ナニ、コレ」



僕がさっきまで森の入り口(つまりは僕が森に入ってきた場所)

だと思っていた部分は所狭しと茂る木々に覆われていたのだ。

もう、どこが入り口なのかわからない。

それどころか、辺りを見渡してみても光源となるものは葉の間から見えるわずかな日の光のみで、

明らかに闇は広がっている。



「何だよ、これは!」



同じ台詞を吐き捨てたところで状況が変わるわけじゃない。

底なしの闇はあざ笑うかのごとく鎮座したままだ。



「困りましたね。一度進入者を許してしまったことで森の木々が出入り口を閉ざしてしまったようです。
これはもう、どうすることもできません」



「そんな! 警備の厳しい博物館じゃあるまいし・・・どうにかならないの? あなたこの森に詳しいんでしょ?」



不可解なことが多すぎていちいち突っ込むのも面倒くさくなってきた僕は、

森の木々の機能うんぬんよりも早くこの場所から脱出したかった。

叫ぶような言葉にも焦りが滲む。



「どうにか、と言われても私にはどうすることもできませんよ。だけど・・・この森の女王様なら・・・あるいは」



「どうにかできるんだね! じゃあ早く行こうよっ」



 まだ考えている様子のその人の手を急かすように引っ張る。

まるで駄々をこねる子供のようだ。



若干、強引ではあるけれど、ここまで来ると後には引けなかった。



正直、女王って何だよ、とか色々聞きたい部分はあったのだが。












続く