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amaoto















弱く、静かな雨が降っていた。




ようやく着いた目的地のアパートまでそんなに距離は無かったものの、

傘もささずに出かけていた僕の肩には薄っすらと透明な水の粒がはりついていた。

梅雨も半ばの季節だからしょうがない。

今朝は雨がやんでいたから油断していたのだ。

空は憂鬱を膨張させたかのような雲を敷き詰めて、重くのしかかる。




こんな日は目の前の扉さえ重く感じさせる、と空気に酔ったように考えた。




それはまるで、自嘲のようだ。




ノックもせずに扉を開く。

何度も訪れた部屋だ。

必要ない。



中からは何やらがさがさと物を漁る音がした。

不審に思って奥の部屋へ音も立てずに行くと、

そこでは一人の男が無心に押入れの中身を取り出していた。

不意に男と目が合う。

男はわずか目を見開く。

そこには少しの驚きと困惑の色が見えた。



僕がこの家を訪れるのは一回や二回のことではない。

頻繁とまでいかないにしてもそれなりになれた場所だった。

前回、来たときからずいぶん日は経ってはいるが、

そんなことは今までにもよくあったことで、取り立てて問題にすることではない。

今日のように何の連絡もなしに急に押しかけることもよくあること。

けれど、今まで一人でここにきたことはない。

いつももう一人、僕とこの男の間にいた。

ただ、それだけの違い。

けれどその違いにこうして彼は戸惑っている。

僕がもう来ないとさえ思っていたのではないだろうか。


「・・・・・・よお、薫。久しぶりだな」


不自然な間の後に、ぎこちない笑みを添えて彼がしぼりだした言葉は取りとめもないものだった。

それは不自然さに拍車をかけるものであったが、


「ひさしぶり、翔」


僕もそれに応える。

二人の間に妙な空気が流れたが僕らはそれを無視した。







続く