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「コーヒーでいいな」







そう言ってキッチンに引っ込む翔に、

「ん」と短い相槌を返す。

僕はさっきまで彼がいたリビングに勝手知ったる顔でくつろいでいた。



リビングに散らかされた諸々のものはそのままだ。

どうやら、押入れの整理をしていたらしい。

散らかされた物はバラエティに富んでいて、

小さい頃よくひっくり返していたおもちゃ箱の中身を思い出す。

そう考えるとここにあるものが全部彼の宝物のように見える。

よく見れば、ほとんど彼が小さい頃に使っていたものばかりだ。

中学の時僕があげた靴や、

小学校のとき担任の先生からもらった本、

幼稚園の時のアルバムまである。

適当に押し込めているようでけっこう物持ちのいいやつなんだな、と今更のように感心した。



手を伸ばしてなんとなく物色していると、


キン・・・・・・。


という小さな金属音がした。

その音のもとを探して、物が積み上げられた辺りを漁ると、

そこにはオルゴールがあった。

透明なプラスチックの薄いドームの中にガラスの白鳥が座っている。

綺麗なオルゴールだった。

底にあるぜんまいを巻くと、オルゴールはたどたどしくメロディを奏でる。





切なくて、でもどこか懐かしい響きがした。





僕はこの曲を知っている。

無意識に上着のうちポケットに手が伸びる。

手に触れる、硬い感覚。


「お前、勝手に人の持ち物あさるなよな」


振り向くと、翔が湯気のたつカップを二つ持って立っていた。


「この、オルゴール・・・・・・」


「ああ、去年の誕生日に千夏にもら・・・・・・」


急に、翔は口を閉ざす。

ここまで意識的に避けていたキーワードに自ら触れるという失敗を犯してしまったのだ。

やってしまった、という顔を隠すように、彼は顔を背けた。

わずかな沈黙が二人を攻める。

雨が、強さを増して地面を叩く音が無音の部屋に響いた。







続く