「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫か?」 翔が気遣わしげにこちらをうかがった。 長い沈黙の後だったから、ずっと言葉を選んでいたんだろう。 「・・・・・・お前こそ」 傘では防ぎきれなかった雨粒が服を濡らす。 それでも、まったく気にならなかった。 千夏という女性は、僕の姉であり翔の恋人だった。 だった、と過去形で表すのはその関係性が失われたからではない。 この場所で死んでしまったからだ。 まだ、過去の人として扱うのは抵抗がある。 翔はどうか知らないけれど、僕にとって姉さんは無くてはならない存在だった。 唯一で、全てだった。 犯人を突き止めて何もしない、と翔には言ったが、その自信は正直、あまり無い。 「例の植え込みは?」 翔が尋ねた。 「あそこだ・・・・・・」 僕が指差したのは木から20メートルほど離れた場所だ。 植え込みの前には木が数本植えられている。 木の陰にはなっているが、これでは雨は防げないだろう。 やはり、ここに犯人が携帯を置いたのだという結論に至る。 「お前、今日、何時に起きた?」 翔のその質問は唐突に思えたが、すぐにその意図がわかった。 「6時だけど?」 「・・・早起きだな」 僕は土日を除いて、毎日、朝一で学校があった。 土日も朝早くからバイトが入っている。 月曜の午前中は授業は無いけれど、習慣が身についてしまって、午前6時には目が覚めてしまう。 なるべく早く公園に来て姉さんの死の真相を調べたいから、という理由もあった。 朝の明るい内にこの公園に来ることが出来るのは月曜日くらいしかなかった。 「そのとき、雨は降っていたのか?」 「小雨だけど、少し降っていた」 「お前が出かける時は?」 「もう、やんでいた」 僕が家を出たのは7時で、公園で携帯を見つけたのが8時。 翔の家に着いたのが9時。 その頃には雨がまた降り出していた。 そこから、携帯がこの場所に置かれた時間を割り出そうとすると1時間弱くらいだ。 つまりはだいたい6時半から7時半の間。 雨に携帯が濡れてしまっては犯人にとって都合が悪い。 雨がやんでいたとしても、僕がアラームに気づかず、素通りしてしまっても都合が悪い。 犯人の目的は僕に携帯を拾わせることなのだろうから。 きっと僕が携帯を拾うのを、どこかで確認していたのだろう。 そういった表面的な事実はわかっても、まだ、どうしてもわからないことがある。 続く |