「・・・なあ、どうして葬式来なかったんだよ」 意を決して翔に問いかけた。 それは核心を突く言葉だった。 責めるような口調になってしまったのは無意識だ。 「・・・・・・」 「抜けられない用事があったならしょうがないにしても、 せめて焼香くらい・・・「行けるわけないだろ」」 黙り込んだ彼に対して畳み込むように言葉を浴びせる僕に、有無を言わせない強さで彼が反論する。 「俺のせいだ。俺のせいなんだ。俺が気づいてやれなかったから、 千夏が苦しんでいることも悩んでいることも何も知らなかった。 俺のせいで千夏は・・・・・・」 俺のせいだ、と繰り返す。 壊れた機械のように何度も。 そんな翔を見るのは初めてだったし、これ以上見ていたくないと思った。 「・・・・・・お前のせいじゃないことはわかっている」 目を伏せて、口を開く準備をする。 これは口にしてもいいことなのか、彼はこれを伝えてもいい相手なのか。 覚悟を決めるのに時間がかかったが、僕は意を決して言葉を紡いだ。 「・・・お前は本気で姉さんが自殺したなんて思ってるのか?」 その瞬間、翔は勢いよく顔をあげた。 何をわけのわからないことを言い出すのだ、とその目が訴えていた。 千夏という女性、僕の姉さんが死んだという事実は書きかえの出来ない事だ。 それは確かだ。 死んだ場所は僕と姉さんが住むアパートから近い公園。 公園には奥まったところに大きな木が植えられており、そこに姉さんは吊るされていたのだそうだ。 死因は頚部圧迫による窒息死。 第一発見者は公園に暮らすホームレス。 発見された時の状態は悲惨なものだったらしい。 僕は見ていないからどういう風に悲惨だったのか、わからないしわかりたくもない。 ただ、棺桶に収まった後の彼女の顔は、眠っているみたいに穏やかでとても綺麗だった。 あれからもう一ヶ月が経った。 この部屋に来るのも一ヶ月ぶりだ。 姉さんの遺書は発見されなかったけれど、彼女の死は自殺と断定された。 僕は警察のこの見解にいまだに疑問を抱いている。 「つまりは、何か? 千夏は誰かに殺されたってのか?」 馬鹿馬鹿しい、と吐き棄てる翔はどこか自棄になっているようだ。 「それはまだわからない。けど、これだけはわかる。 姉さんは自殺なんてするような人じゃないよ。それだけは確かだ」 「・・・・・・」 翔は口ごもる。 きっと彼も同じように考えていたに違いない。 長い付き合いだからよくわかる。 愛した女性が死んだという事実だけでもつらいのに、 さらにつらい事実を暴くことはどれだけ彼にとって苦痛なことだろう。 だが、それは僕にとっても同じなのだ。 「俺も、それは考えていた。けど、何の根拠も無いのにわざわざそんなことは・・・」 「警察は自殺の線をまったく疑ってないようだな。 遺書が無いって言ったって最近の自殺傾向からすればなんらおかしいことじゃないらしい」 だから、これは僕しか知らないことなんだけど、 と前置いて僕は懐からビニールに包まれたそれを取り出した。 続く |