半透明なビニールに包まれたそれはシルバーの折りたたみ式の携帯電話だった。 「それは、まさか・・・・・・」 「姉さんの携帯だよ」 「それが・・・・・・?」 「姉さんは死んだとき、携帯を持って無かったらしい。 今朝、携帯のアラームが聞こえたから、たまたま僕が発見したんだ」 翔は目を見開くが、すぐに正気に戻って問いかけた。 「でも、携帯を持たずに自殺するなんて、良くあることなんじゃないのか?」 「携帯を見つけたのは公園の、例の木から離れた植え込みの中だ」 「・・・・・・」 「さらに言うなら、アラームを聞いたのは死んでから一ヶ月は経つのに今朝が初めてだ。 どういうことだかわかるか?」 翔は目の辺りにかかる前髪をかきあげて、額を手の平で押さえた。 彼が考え事をする時によくするクセだ。 「つまり、千夏は公園で何者かに襲われた。 そしてその犯人は彼女を木に吊るして自殺に見せかけて殺した。 その際に千夏はあらかじめ今日この日にアラームをセットされた携帯を植え込みの中に落とした」 「そう、考えられないか・・・・・・?」 「そう、だな。そうかもしれない。だとしても、何かおかしい」 確かに、おかしい。おかしいことだらけだ。 そもそも姉さんが誰かに殺されることからしておかしい。 計画性を感じさせる手口は、怨恨の線が考えられる。 弟の自分から見ても誰かの恨みを買うような人じゃないのだ。 それに、どうして姉さんは今日にアラームをセットしておいたのだろう。 何かのメッセージだろうか。 「仮に、このアラームを姉さんが故意にセットしたとしよう。 だとしたら、それをしたのはいつだろう。殺される直前だとしたら? これは姉さんの残したダイイングメッセージと言えないか?」 これは、あくまで憶測にすぎない。 できれば考えたくないことだ。 これ以上言葉を重ねるのは僕らの傷をえぐるような事になるのかもしれない。 考え出すと止まらなくなる僕の思考回路は、 頭の中でなり続ける警鐘を何度も無視してやり過ごしていた。 「姉さんには抵抗した跡がなかった。 自殺だと考えればそれは納得できるけど、他殺だと考えれば? 油断していて抵抗できなかったんだとしたら? もしかしたら、姉さんの親しい人が犯人なのかもしれない」 無言の翔に対して矢継ぎ早に言葉を連ねる。 次第に彼の顔が暗くなるのがわかったが、僕はそれすら無視した。 続く |