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「・・・・・・帰りたい」



私がぽつりと嘆きをひとつシーツの上に落とすと、心配するような同情するような気遣わしげな視線をよこされた。



「・・・・・・君は外から来た、とでも言いたいの」



「外・・・・・・外って」



支離滅裂な私の言葉に、それでも何か答えを得たように、男は確信を含んだ言葉を投げかける。



「この世界の外側の世界だよ。たまにいるんだ、そういう人が。君の話を聞いているとどうもかみ合わない感じだし、だいぶ混乱してるみたいだ。それに」



「それに?」



「それに、君の倒れていた場所。あそこは辺境の森の中で、滅多に人は通らないはず。おかしいなって思ってたんだ」



私がどこで倒れていたって?

辺境の森も世界の外側もわからない。

ここが私の知っている世界では無いと男は言いたいのだろうか。

わからない場所に放り込まれて分かれなどと言われても無理に決まっている。



「混乱しているのはわかる。外の世界の人はみんなそうだから。悪い夢を見ている、そう思ってくれていい」



うつむいた私に呼びかける少年の声は穏やかで暖かい。

不可解な事態を押し付けるでなく、こちらに任せるような言い方も安心できた。

何となく慣れているような感じもした。



「だけど、もとにいた場所に帰りたいでしょ。僕が案内してあげるよ。それが僕の仕事でもあるから」



「案内ってどこに」



「女王のところ」



「女王?」



「そう、この世界の支配者。何でも願い事を叶えてくれる女神様みたいな存在」



そうなんだ、と思わず納得してしまいそうになり、オイオイと踏みとどまる。

どうもさっきから自分の中の常識はことごとく無視されてしまっている。

それだけならまだしも、それを受け入れる体制になっている自分が危険な感じだ。

事態が変わらないなら慣れてしまえと、自分の中の保身機能が働いているのかもしれない。

保身機能というよりはむしろ楽観主義によるところが大きいのかもしれないけれど。



「じゃあ、出発は明日でいいね。詳しい話もまた明日。君も今日はゆっくり休むといいよ。まだ慣れないことも多いと思うし」



「あなたが、案内してくれるの」



「うん、僕と相棒がね。僕たちはクロウサギだから」



「?」



「それもまた明日説明してあげる。相棒とも明日会えるよ」



何だか一気に気が抜けてしまって、再びベッドに倒れこんだ。

天井を仰いでほうっとため息をつく。

また、明日。

明日になればいつもの天井があってほしい。



「じゃあ、また後でね」



「え・・・・・・ちょっ、待っ」



ばたん



私の制止の声は扉の音にかき消された。

別に何か用事があったわけじゃないけど、せめて名前くらいは聞きたかった。

明日また聞けばいいか、と楽観視できるほど今の状況を軽んじてはいない。

すでに私の日常は何らかの形で崩されたのだ。

仮にこれが悪い夢だとするならば、目が覚めたときには元の世界に戻っているのだろうか。















続く